(1)立憲主義が問われている
(2)中世における憲法の萌芽形態
(3)予定説を媒介として生まれた「人権」概念
(4)ロックの思想と市民革命
(5)立憲主義の歴史を辿り返す必要がある
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(1)立憲主義が問われている
高校生のみなさん。本稿は高校生のみなさんに対して,憲法の歴史について説いていく講義です。なぜこのような講義をするのかというと,みなさんもご承知のとおり,2015年6月に改正公職選挙法が成立して,選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられたからです。この法律は,今年の6月19日に施行され,7月に行われた参議院議員通常選挙から,18歳,19歳であっても選挙権が与えられ,投票することが可能となったのです。つまり,高校生であっても,選挙に行って投票する人が出てきたということなのです。
しかし,投票するためには,政治の仕組みについてしっかり分かっておく必要があります。現代日本では,憲法に基づいて政治が行われています。これを立憲主義(あるいは立憲政治)といいますが,この政治の一番の要(かなめ)は,もちろん,憲法にありますから,憲法とはどのようなものであるのかを,その歴史も含めてみなさんにしっかりと理解してもらいたいのです。
もう一つ,最近の政治状況において,その立憲主義が危うくなっているという指摘があります。以下の新聞の社説を読んでみてください。
「安保法成立1年 違憲性は拭い去れない
安全保障関連法の成立から一年。「違憲立法」の疑いは消えず,既成事実化だけが進む。戦後日本の平和主義とは何か。その原点に立ち返るべきである。
与野党議員が入り乱れる混乱の中,安倍政権が委員会採決を強行し,昨年九月十九日に「成立」したと強弁する安保関連法。今年三月に施行され,参院選後の八月には自衛隊が,同法に基づく新たな任務に関する訓練を始めた。
政権は既成事実を積み重ねようとしているのだろうが,その土台が揺らいでいれば,いつかは崩れてしまう。その土台とは当然,日本国憲法である。
◆他衛認めぬ政府解釈
七月の参院選では,安保関連法の廃止と立憲主義の回復を訴えた民進,共産両党など野党側を,自民,公明両党の与党側が圧倒したが,そのことをもって,安保関連法の合憲性が認められたと考えるのは早計だろう。
同法には,「数の力」を理由として見過ごすわけにはいかない違憲性があるからだ。
安保関連法には,武力で他国を守ったり,他国同士の戦争に参加する「集団的自衛権の行使」に該当する部分が盛り込まれている。
安倍内閣が二〇一四年七月一日の閣議決定に基づいて自ら認めたものだが,歴代内閣が長年にわたって憲法違反との立場を堅持してきた「集団的自衛権の行使」を,なぜ一内閣の判断で合憲とすることができるのか。
憲法の法的安定性を損ない,戦後日本が貫いてきた安保政策の根幹をゆがめる,との批判は免れまい。成立から一年がたっても,多くの憲法学者ら専門家が,安保関連法を「憲法違反」と指摘し続けるのは当然である。
(中略)
国会での長年にわたる議論を経て確立した政府の憲法解釈には重みがあり,一内閣による恣意(しい)的な解釈が認められないのは当然だ。それを許せば,国民が憲法を通じて権力を律する立憲主義は根底から覆る。安倍内閣の手法は,歴史の検証には到底,耐えられない。
◆憲法の危機直視せよ
日本の安保政策を,専守防衛という本来の在り方に戻すには,集団的自衛権の行使を認めた閣議決定を撤回し,安保関連法を全面的に見直すしかあるまい。
安倍政権は,自民党が悲願としてきた憲法改正に向けて,衆参両院に置かれた憲法審査会での議論を加速させたい意向のようだが,政府の恣意的な憲法解釈を正すことが先決だ。与野党ともに「憲法の危機」を直視すべきである。」(2016年9月20日 東京新聞社説)
ここでは,一年前に成立した安全保障関連法には違憲立法の疑いがかけられていること,それは,この法律に含まれる「集団的自衛権の行使」が,従来の政府の憲法解釈では違憲であるとされていたのに,2014年7月の閣議決定で合憲だと180度判断が変わってしまったからであることが説かれています。このように,憲法について「一内閣による恣意(しい)的な解釈」を許してしまえば,「国民が憲法を通じて権力を律する立憲主義は根底から覆る」として,立憲主義が危機的な状況にあると指摘されているのです。
本当に立憲主義が危うくなっているのか,それとも,そんなことはないのか,現在の安倍政権の行っていることは憲法に基づいた政治といえるのか,そうでないのか。これらの問題については,多様な立場があるでしょう。しかし,これらの問題にしっかりと答えるためには,その前提として,そもそも立憲主義とは何なのか,憲法に基づく政治とはどのようなことなのか,そもそも憲法とはどのような存在なのか,ということがしっかりと理解できていなければなりません。
ところが,現在高校で習う世界史にしても政治・経済にしても,この根本的なところがなかなか理解しにくくなっています。というのは,大学受験を目指してこれらの科目を勉強すると,どうしても細かな知識の暗記になってしまい,歴史の大きな流れや政治の大きな柱といったようなところが,なかなか理解できないからです。もちろん,この社説で説かれているように,立憲主義とは,端的にいってしまうと「国民が憲法を通じて権力を律する」ことなのですが,この言葉だけでは,なぜ権力を律する必要があるのか,権力を律するのはそもそも何のためなのかといった具体的な内容が分かりませんし,単なる薄っぺらな知識に終わってしまいます。
そこで本稿では,憲法の歴史,立憲主義の歴史をダイジェストで,一番大切なポイントに絞って説いていくことにします。その際,細かな事実にとらわれることなく,高校の世界史や政治・経済の教科書に説かれているような知識に筋をとおす形で,憲法がどのように誕生して,どのように成長してきたのか,憲法にはどのような機能があり,立憲主義とは具体的にどのようなことであるのか,ということを,物語風に説いていければと思っています。なお,本校執筆にあたっては小室直樹『痛快!憲法学』(集英社インターナショナル,2001年)を参考にしました。

