(1)今流行のマインドフルネスの意義とは
(2)問いかけの矛先を変えてもう一人の自分を移動させる
(3)自分の認識=像を客観的に眺める
(4)技化の解除を図ることができる
(5)マインドフルネスは認識のコントロール法の1つである
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(1)今流行のマインドフルネスの意義とは
近年,心理療法の世界では「マインドフルネス」と呼ばれる技法がブームになっています。これは,禅宗の瞑想法に由来するもので,アメリカで少し前から一大ムーブメントとなっていましたが,日本でも,いわば逆輸入された形で話題になっているといってもいいでしょう。
どのくらいのムーブになっているのか,少し紹介します。Amazonの書名検索で「マインドフルネス」を検索すると,この原稿を書いている1月末時点で,日本語の書籍に関しては,2011年12月以前には8件しかヒットしませんが,2012年1月以降の条件にすると,31件ヒットします。"mindfulness"で検索して英語の書籍を調べると,2011年12月以前は197件で,それ以降は355件です。欧米で流行し始めたものですので,英語の書籍は2011年以前でもたくさん出版されていますが,それでもここ3年くらいは,さらに勢いを増して出版が続いていることが分かります。また,日本では,本当にここ3年ほどで急速に流行りだし,年10冊ペースで関連本の出版が続いている状況です。たとえば,『不安・恐れ・心配から自由になるマインドフルネス・ワークブック』『うつのためのマインドフルネス実践』『4枚組のCDで実践する マインドフルネス瞑想ガイド』のような翻訳本が多いですが,『うつ・不安障害を治すマインドフルネス』『マインドフルネス入門講義』のような,日本人の手になるものも出版されています。
新聞記事でも,以下のようなものがありました。
「流行を読む 「米IT,研修に禅導入」
グーグルやインテルなど,IT業界を中心に,米国の企業が仏教の「瞑想(めいそう)」を社員研修に導入する事例が相次いでいる。
瞑想はストレスの軽減や,集中力の強化に役立つとされてきたが,最近は新しいリーダーシップの条件と言われる「EI(エモーショナル・インテリジェンス)」を高める人材開発効果に注目が集まっている。EIは自分や他者の感情を理解して,管理,活用する能力を指す。「情動知能」とも訳されるが,仏教の「慈悲」や「思いやり」を企業的に定義したと考えると分かりやすい。
グーグルは,瞑想をEI向上のツールとして宗教と切り離し,「SIY(Search Inside Yourself=自分の内を検索せよ)」を開発した。新たな組織文化を築くため「英知と思いやりに満ちたリーダーを世界に増やす」として非営利団体を設立し,SIYを社外展開している。10月に日本で初めて一般向けに開催された2日間のセミナーは,13万5千円のチケットが開催5カ月前に完売したという。
SIYの基盤は「今,ここ」に集中して平安を得る禅の「マインドフルネス」瞑想にある。自分と周囲をありのまま観察し,評価や判断を下さず共感をもって受け入れる。
この瞑想を提唱するのがベトナム生まれの禅僧,ティク・ナット・ハン師だ。グーグルは2011年に,初めてハン師を本社に招き,感謝とともにゆっくり味わう「食べる瞑想」や,一歩一歩を意識する「歩く瞑想」を研修として実施,その後も頻繁に師を招いている。現在は世界銀行などもハン師を招くようになったという。日本では来年5月,ハン師を招いて講演会などが開催される。
ティク・ナット・ハン2015来日招聘(しょうへい)委員会の大類隆博さんは「呼吸に気づき,苦しみに優しくほほ笑んで下さい」と説くハン師の瞑想に触れ,仕事への姿勢が変わったと話す。持続可能な発展を模索する時代に,東洋の知恵が輝きだしている。
川崎由香利(ジャーナリスト)」(2014.10.17日経産業新聞)
ここでは,マインドフルネス瞑想の人材開発効果に着目して,グーグルが自社製のセミナーを日本でも開いて大盛況だった旨が紹介されています。このように,マインドフルネスは,心理療法の世界のみならず,有名企業が注目するまでの大流行となっているのです。
では,マインドフルネスとはいったいどのようなもので,どのようなことを行うのでしょうか。そしてこの瞑想法には,どのような効果があるのでしょうか。2013 年12月に発足した日本マインドフルネス学会のサイトでは,マインドフルネスを以下のように定義しています。
「本学会では,マインドフルネスを,“今,この瞬間の体験に意図的に意識を向け,評価をせずに,とらわれのない状態で,ただ観ること” と定義する。
なお,“観る”は,見る,聞く,嗅ぐ,味わう,触れる,さらにそれらによって生じる心の働きをも観る,という意味である。」(http://mindfulness.jp.net/concept.html)
これだけではどういうことなのか,分からないと思いますので,具体的なやり方とともに説明します。
たとえば,「呼吸のマインドフルネス」と呼ばれるやり方があります。これは,自分の呼吸に意図的に意識を向け続けるという実践です。お腹が出たりへっこんだりする,あるいは,鼻の穴に空気が入ってきて,またそこから出ていく,といったような,呼吸に伴う今この瞬間の身体感覚の変化に注意を向けて,良いとか悪いとか評価せずに,それをただただ観察するのです。もちろん,ずっと呼吸に意識を向け続けることは難しく,何らかの雑念が湧くことになります。たとえば,「昨日の仕事は失敗したなあ」とか,「来週のイベントは,嫌だなあ」とかです。これは,心が過去や未来にさまよったことを意味しています。この場合,心がさまよったことになるべく早く気づいて,また元の呼吸へと,優しく注意を戻すことが求められます。このようなことを延々とくり返すのが呼吸のマインドフルネスです。
他に,「歩くマインドフルネス」と呼ばれるものもあります。これは,非常にゆっくり歩きながら,歩いている体験に意図的に意識を向け続けるというものです。もう少し具体的には,片足をゆっくり上げるときの重心の移動に注意を向け続け,その後,足が地面から離れる感覚,足を前に運んでいる感覚,足が地面に着く感覚,そしてまた重心が次第に移っていく感覚に注意を向け続けるのです。この時も,雑念が湧いたら,そのことに気づき,優しく注意を今この瞬間の体験に戻します。
「食べるマインドフルネス」もよく使われる技法です。これはたとえば,一粒のレーズンを,非常にゆっくり,30分くらいはかけて食べるという実践です。まず手の平にレーズンを乗せて,ゆっくりと観察します。まるで初めて見るものであるかのように,好奇心をもって詳しく調べるのです。親指と人差し指でつまんで,その感触も感じます。鼻の前にもってきて,その香りも味わいます。そして口の中に入れるのですが,当初は噛まずに,ただ舌の上に置いておき,その感覚や口の中の変化をを感じ続けるのです。そして歯の間にもってきて,一度,ゆっくりと噛みます。その時の口の中の変化にも注意を向けます。その後はゆっくりと噛み続け,レーズンに意識を向け続けるのです。最後に,飲み込もうとする直前に,「飲み込みたい」という意志というか衝動というか,そのような心の変化が生じることにも気づきます。そして飲み込み,レーズンがのどを通って胃の中に落ちていくのを感じます。
以上のような実践の具体例で,“今,この瞬間の体験に意図的に意識を向け,評価をせずに,とらわれのない状態で,ただ観ること”というマインドフルネスの定義はある程度理解していただけたのではないかと思います。
このマインドフルネスは,もともと,慢性疼痛に伴うストレスを低減する方法として治療の中に導入されました。それが,境界性パーソナリティ障害の方の衝動性を制御する方法として,またうつ病の再発を予防する方法として,さらには,不安や怒りなどの感情をコントロールする方法として,心理療法の中に次々にとり入れられていったのです。そして,これは確かに効果があるということで,現在のような一大ブームが起きているのです。
では,このようなマインドフルネスが,なぜ心理療法として効果があがっているのでしょうか。本稿はこの問題を,認識論的に解明する試みです。筆者自身もマインドフルネスの瞑想をかれこれ7年くらい実践していますし,クライエントさんに使い始めてからも5年ほど経っています。そのような実践の成果も踏まえて,マインドフルネスを認識論的に説いていきたいと考えています。

