(1)2014年総選挙の結果が問いかけるものとは
(2)新自由主義による国民経済の破壊と「アベノミクス」幻想
(3)新自由主義による労働者階級への攻撃と議会制民主主義の空洞化
(4)改憲への動きを規定する復古的イデオロギーの桎梏
(5)日本の将来を切り拓く指針となる学問の構築が求められている
*文中の敬称は略した
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(1)2014年総選挙の結果が問いかけるものとは
2014年12月14日に投開票が行われた衆議院議員総選挙は、自民党・公明党の与党が3分の2の議席を維持するという結果に終わった。これを受けて、12月24日には第3次安倍政権が発足した。総選挙の結果、我が日本国は、「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍首相の下で「戦後70年」という節目の年を迎えることになったわけである。
しかし、2014年総選挙ではそもそも一体何が問われていたのだろうか。その問いに対して日本国民は如何なる解答を与えたのであろうか。
そもそも安倍首相は、衆議院解散を自ら「アベノミクス解散」と銘打ち(11月21日の記者会見)、消費税率10%への引き上げを1年半(当初予定の2015年10月から2017年4月へ)延期することの是非、「アベノミクス」継続の是非について国民の信を問うためだ、と説明していた。消費税増税の先送り及び衆議院の解散を表明した11月18日の記者会見では、安倍首相は次のように発言している。
「国民生活にとって、そして、国民経済にとって重い重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきである。そう決心いたしました。今週21日に衆議院を解散いたします。消費税の引き上げを18カ月延期すべきであるということ、そして平成29年4月には確実に10%へ消費税を引き上げるということについて、そして、私たちが進めてきた経済政策、成長戦略をさらに前に進めていくべきかどうかについて、国民の皆様の判断を仰ぎたいと思います。……
今、アベノミクスに対して失敗した、うまくいっていないという批判があります。……私たちが進めている経済政策が間違っているのか、正しいのか。本当にほかに選択肢があるのかどうか。この選挙戦の論戦を通じて明らかにしてまいります。そして、国民の皆様の声を伺いたいと思います。」
このように、安倍首相は当初、消費税増税延期の是非、「アベノミクス」継続の是非を総選挙の最大の争点に掲げていたのであり、もっぱら経済政策の問題に論戦を限定しようという姿勢が鮮明であった。
ところが、マスコミの情勢調査などで自民党の圧倒的な優勢が伝えられるに及んで、安倍首相は、街頭演説やテレビ討論会などで、集団的自衛権や改憲の問題にも積極的に言及するようになっていった。さらに選挙後の記者会見(12月15日、自民党本部)では、以下のように述べるに至ったのである。
「今回の選挙はアベノミクス解散でもありましたが、7月1日の閣議決定〔集団的自衛権の行使容認――引用者〕を踏まえた選挙でもありました。そのこともわれわれ、しっかりと公約に明記しています。また街頭演説においても、あるいは数多くのテレビの討論会でもその必要性、日本の国土、そして領空、領海を守っていく、国民の命と安全な国民の幸せな暮らしを守っていくための法整備の必要性、閣議決定をもとにした法整備の必要性ですね、集団的自衛権の一部容認を含めた閣議決定に基づく法整備、これを来年の通常国会で行っていく、これを訴えて来たわけです。このことにおいてもご支持をいただいた。当然、約束したことを実行していく。これは当然、政党、政権としての使命だと思う。来年の通常国会のしかるべき時に法案を提出していきたい。そして成立を果たしていきたいと考えています。……
憲法改正については、これは自民党結党以来の一貫した主張です。ただし、国会において3分の2の議員を確保しなければならないと同時に、最も重要なことは国民投票において過半数の国民の支持を得なければならない。その観点から、国民的な理解と支持を深め、広げていくために、これから自由民主党総裁として努力をしていきたいと思っています」
このように、安倍首相(自民党総裁)は、自民党の勝利は集団的自衛権の行使容認に国民が支持を与えたものにほかならないと強弁し、憲法改定に向けた強い意欲をあからさまに示したのであった。
こうして安倍首相の総選挙前後2つの発言を並べてみると、国民の支持を比較的容易に獲得できそうな経済政策の問題(増税の延期、「アベノミクス」の継続)を前面に押し出すことで、集団的自衛権の行使容認など国民の支持の獲得が容易でない問題について、事実上の白紙委任を取り付けようとする、卑劣きわまりない姿が浮かび上がってくる。
ここで決定的に深刻な問題として直視しなければならないのは、こうした安倍首相の2つの発言が、今回の総選挙における異常なまでの低投票率という形で現れた、国民の圧倒的な無関心によって媒介されている、という現実である。
具体的な数字で確認しておこう。民主党が政権交代を実現した2009年8月総選挙の投票率は69.28%であった。これに対して、自民党が政権を奪還した2012年12月総選挙の投票率は、前回から10%近くも下落して59.32%となり、戦後最低を更新した。今回の総選挙の投票率は、そこからさらに何と7%近くも下落して、2回連続で戦後最低を更新することになったのである。注目すべきなのは、自民党の得票数は、この3回の総選挙を通じて減り続けていることである。2009年の総選挙では、自民党は小選挙区で2,730万票を獲得したが、民主党よりは少なかったために惨敗した。2012年の総選挙では2,564万票だったが、投票率が下がるなか民主党の得票数が激減したために相対的に浮上し、政権を奪還することができたのである。今回は前回より12万票少ない2,522万票にすぎなかったが、有権者のほぼ半数が棄権するなか、民主党の2倍以上の票を得た結果、圧勝したのである。与党が衆議院の3分の2超の勢力を維持したとはいえ、与党の絶対得票率(全有権者数に占める得票数の割合)は30%にも満たないのである。まさに議会制民主主義の正統性の根幹を揺るがすような、極めて深刻な自体が進行しているといわねばならない。
こうした異常なまでの低投票率という事態に、「自民党への批判票を投じようにも、適当な候補者や政党が見あたらなかったからだ」といった説明を加えるのは容易い。しかし、これだけではあまりにも現象論的な見解(事態の上辺だけをなぞった見解)というべきである。そもそも、そうした候補者や政党が存在しなくなってしまったのは何故なのか。こうした点も含めて、もっと掘り下げた考察が必要であろう。そしてまた何よりも、国民の圧倒的な無関心による自民党の圧勝という事態が「戦後70年」を迎える日本に如何なる結果をもたらそうとしているのか、このことをしっかりと考えておかなければならない。
以上のような問題意識を踏まえつつ、本稿では、2014年総選挙をめぐって、以下のような3つの問題について検討することにしたい。
まず、2014年総選挙において当初、「アベノミクス」継続が政権与党への国民の支持獲得のための旗印として位置づけられたのは何故か、という問題について検討する。
次いで、2014年総選挙が異常なまでの低投票率に終わってしまった構造的な要因は何なのか、という問題について検討する。
さらに、2014年総選挙の結果を受けて、安倍首相が信念として掲げる「戦後レジームからの脱却」(*)を目指した動きが強まることが予想されるが、これは第2次世界大戦の終結から70年を迎える世界のなかで、日本を如何なる境遇へと導いていくものであるのか、という問題について検討する。
(*)第1次安倍政権(2007-2008年)は、「戦後レジーム」とは「憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組み」であり、「戦後レジームの脱却」とは、21世紀の時代の大きな変化についていけなくなっている戦後レジームを原点にさかのぼって大胆に見直していくことである、と説明していた(衆議院議員逢坂誠二君提出経済財政改革の基本方針二〇〇七に関する質問に対する答弁書)。

