2017年09月21日

新しい国家資格・公認心理師を問う(2/5)

(2)公認心理師の概要

 本稿は、新しく誕生する国家資格である公認心理師について、その歴史的な意義や限界を問うことを目的としている。

 今回は、公認心理師法や公認心理師のカリキュラム等検討会の報告書をもとに、公認心理師というのはどのような資格であるのか、その概要を紹介する。

 公認心理師法では、その目的として、「公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする」と書かれている。すなわち、国民の心の健康の保持増進に寄与することが、法の目的であると同時に、公認心理師の活動の目的であると考えてよいだろう。この目的の達成のために、「保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって」、次の4つの行為を行うものが公認心理師であるとされている。

@ 心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
A 心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
B 心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
C 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供


 順に、もう少し詳しく説明したい。

 @はいわゆる心理査定とか心理アセスメントとか呼ばれるものであり、典型的には、心理テストを実施して、その結果を解釈するような作業のことである。たとえば、知能検査を実施して、対象者の知的な能力の偏り(得意なところと不得意なところ)を分析したり、パーソナリティ検査を行って、対象者の性格傾向を把握したりすることである。精神疾患のある方が対象である場合は、その疾患の重症度を測ったりもする。もちろん、心理テストを用いずに、あるいは心理検査と合わせて、対象者の行動を観察したり、本人から話を伺ったりすることによって、その心理状態を分析することもある。いずれにせよ、@では、対象者の心の状態がどのようなものかを専門的に調べて、分析・評価する仕事だといえるだろう。

 Aはカウンセリングや心理療法のことである。広く、心理的介入ということもある。たとえば、うつ病の方に認知行動療法を実施して、症状の緩和や回復を図っていくことや、不登校の中学生にカウンセリングを行い、登校できるように援助していくことなどである。もちろん個別に、1対1でカウンセリングや心理療法を行なうだけではなく、集団に対して心理的介入を行うこともある。うつ病の入院患者さんに対して、病棟のプログラムとして集団認知行動療法を行なうことや、刑務所で、出所後、きちんと就職できるように、就労に関するスキルを訓練するためにSSTを実施することも、ここに含まれるだろう。また、Cとの区別が微妙になるが、企業の新入職員を対象に、メンタルヘルスの研修を行うようなことも、広く解釈すれば、Aに入れてもいいだろう。

 Bは本人ではなく、その関係者に対する働きかけである。たとえば、うつ病患者さんのご家族に接し方のアドバイスをしたり、発達障害のあるの会社員の上司に、その特性をお伝えしたりする活動である。また、コンサルテーションといって、異なる専門家同士の相談もここに含まれる。企業の産業保健スタッフ(産業医や保健師など)と、休職中の方の復職時期やその後のサポートについて相談したり、教育の専門家である学校の先生と、対象の生徒について支援のあり方を相談したりする活動などである。コンサルテーションにおいては、心理の専門家として、その他の専門家と連携していくことが求められる。

 Cは、メンタルヘルスに関わる市民講座や各種メディアを通した情報提供などが想定されていると考えられる。@〜Bが、特定の対象者やその関係者に限られた活動であるのに対して、このCは、不特定多数を対象とした活動といえるだろう。公認心理師の「国民の心の健康の保持増進に寄与する」ためには、@〜Bにあるような「心理に関する支援を要する者」に対して、事後的に介入するだけではなく、現在は心理的な支援を必要としない不特定多数に対しても、事前に、予防的に関わっていく必要がある。そこで、講演会や雑誌、テレビなどのメディアを通じて、心の健康に関する知識を普及していくという活動も、公認心理師の仕事の一つだとされているのだと考えられる。

 このような4つの仕事を行うのが公認心理師であるとされているのである。そして、大学や大学院での公認心理師養成は、この4つの仕事が行えるように教育していく、ということになる。そこで次に、公認心理師養成の中身について、具体的に見ていきたい。

 今年の6月に公表された「公認心理師カリキュラム等検討会 報告書」では、公認心理師の養成について、以下の24の到達目標が挙げられている。

1. 公認心理師としての職責の自覚
2. 問題解決能力と生涯学習
3. 多職種連携・地域連携
4. 心理学・臨床心理学の全体像
5. 心理学における研究
6. 心理学に関する実験
7. 知覚及び認知
8. 学習及び言語
9. 感情及び人格
10. 脳・神経の働き
11. 社会及び集団に関する心理学
12. 発達
13. 障害者(児)の心理学
14. 心理状態の観察及び結果の分析
15. 心理に関する支援(相談、助言、指導その他の援助)
16. 健康・医療に関する心理学
17. 福祉に関する心理学
18. 教育に関する心理学
19. 司法・犯罪に関する心理学
20. 産業・組織に関する心理学
21. 人体の構造と機能及び疾病
22. 精神疾患とその治療
23. 各分野の関係法規
24. その他


 そして、これらの到達目標を達成するために、大学および大学院で必要な科目として、それぞれ次のような科目が指定されている。

大学における必要な科目
1. 公認心理師の職責
2. 心理学概論
3. 臨床心理学概論
4. 心理学研究法
5. 心理学統計法
6. 心理学実験
7. 知覚・認知心理学
8. 学習・言語心理学
9. 感情・人格心理学
10. 神経・生理心理学
11. 社会・集団・家族心理学
12. 発達心理学
13. 障害者(児)心理学
14. 心理的アセスメント
15. 心理学的支援法
16. 健康・医療心理学
17. 福祉心理学
18. 教育・学校心理学
19. 司法・犯罪心理学
20. 産業・組織心理学
21. 人体の構造と機能及び疾病
22. 精神疾患とその治療
23. 関係行政論
24. 心理演習
25. 心理実習(80時間以上)


大学院における必要な科目
1. 保健医療分野に関する理論と支援の展開
2. 福祉分野に関する理論と支援の展開
3. 教育分野に関する理論と支援の展開
4. 司法・犯罪分野に関する理論と支援の展開
5. 産業・労働分野に関する理論と支援の展開
6. 心理的アセスメントに関する理論と実践
7. 心理支援に関する理論と実践
8. 家族関係・集団・地域社会おける心理支援に関する理論と実践
9. 心の健康教育に関する理論と実践
10. 心理実践実習(450時間以上)

 見ていただければ分かるように、認知心理学や社会心理学、発達心理学など、主だった心理学の領域は全て学ばなければならないし、研究法や統計法、実験に関しての科目も必須となっている。また、医療、福祉、教育、司法、産業という、公認心理師が活躍するであろう5領域に関わる科目も、学部、大学院、共に全て修める必要がある。さらに、実習も、特に大学院では長時間、課されている。

 大学と大学院で、上記の科目を履修した者が、公認心理師試験の受験資格を得る。実は、大学院まで修了しなくても、受験資格を得られるルートは存在するのであるが、大学と大学院でこのような科目を修めることがメインルートとされている。

 では、公認心理師試験はどのようなものであるのか。実施方法等と合格基準について、先の報告書では次のように記されている。

「2.試験の実施方法等
 全問マークシート方式とし、1日間で実施可能な範囲(実施時間として合計300分程度を上限)で150〜200問程度を出題する。また、試験問題のうち、ケース問題を可能な限り多く出題する。なお、試験の実施時間は、1問当たり1分(ケース問題については同3分)を目安とする。公認心理師としての基本的姿勢を含めた基本的能力を主題とする問題と、それ以外の問題を設ける。
 障害のある受験者については、回答方法等、受験上の配慮をする。

3.合格基準
 全体の正答率は60%程度以上を基準とする。基本的能力を主題とする問題の正答率は、試験の実施状況を踏まえ、将来的に基準となる正答率を定める。」


 すなわち、事例問題の多い150〜200問ほどのマークシート方式であり、合格基準としては正答率が60%程度以上ということである。「公認心理師としての基本的姿勢を含めた基本的能力を主題とする問題」というのは、これを間違うと、公認心理師としての基本的能力に欠けていると判断されるような問題であり、たとえば、3問以上間違うと無条件に不合格となる、というような、全体の正答率の基準とは別の、より高い基準が設定されるものと考えられる。

 このような試験に合格すれば、晴れて公認心理師となれるのである。なお、第一回の資格試験は、2018年12月までに実施されることになっている。

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 ・改訂版・観念的二重化への道
 ・ロックの教育論から何を学ぶべきか
 ・文法家列伝:ソシュール編
 ・2016年8月例会報告:ヘーゲル『哲学史』「悟性形而上学」第二部・第三部
 ・どうすれば科学的な実践が可能となるか――一会員による『科学的な看護実践とは何か(上)』の感想
 ・夏目漱石『明暗』の構造と結末を問う
 ・ルソーの教育論の歴史的意義を問う
 ・2016年9月例会報告:ヘーゲル『哲学史』バークリー〜ドイツの啓蒙思潮
 ・高校生に説く立憲主義の歴史
 ・三浦つとむ『認識と言語の理論』を読む
 ・2016年10月例会報告:ヘーゲル『哲学史』ヤコービ、カント
 ・専門家教育には何が必要か――一会員による『科学的な看護実践とは何か(下)』の感想
 ・アダム・スミス『国富論』を読む
 ・2016年11月例会報告:ヘーゲル『哲学史』フィヒテ,シェリング,結語
 ・3年間の育児を振り返る
 ・近代教育学の成立過程を概観する
 ・2016年12月例会報告:ヘーゲル『哲学史』のまとめ
 ・年頭言:機関誌の発刊を目指して
 ・激動する世界情勢を問う
 ・『障害児教育の方法論を問う』から何を学ぶべきか―一会員による感想
 ・一会員による『学城』第4号の感想
 ・2017年1月例会報告:シュヴェーグラー『西洋哲学史』、ヘーゲル『哲学史』におけるカント『純粋理性批判』
 ・斎藤公子の保育実践とその背景を問う
 ・認識の形成がうまくいくための条件とは何か?――一会員による『“夢”講義(1)』の感想
 ・本来の科学的な教育とは何か
 ・2017年2月例会報告:カント『純粋理性批判』序文
 ・システムズアプローチを弁証法から説く
 ・一会員による『学城』第14号の感想
 ・ルソー『学問芸術論』を読む
 ・新大学生に説く「大学では何を如何に学ぶべきか」
 ・2017年3月例会報告:カント『純粋理性批判』緒言
 ・斉藤喜博から何を学ぶべきか
 ・重層弁証法を学ぶ――一会員による『“夢”講義(2)』の感想
 ・小中一貫教育を問う
 ・ヘーゲル『哲学史』を読む
 ・2017年4月例会報告: カント『純粋理性批判』先験的感性論
 ・文法家列伝:宮下眞二編
 ・改訂版 心理療法における外在化の意義を問う
 ・マルクス思想の原点を問う
 ・2017年5月例会報告:カント『純粋理性批判』先験的論理学の構想その他
 ・弁証法が技化した頭脳活動を味わう――一会員による『“夢”講義(3)』の感想
 ・教育の政治的中立性を問う
 ・日本経済の歴史を概観する
 ・2017年6月例会報告:カント『純粋理性批判』純粋悟性概念の演繹
 ・一会員による『学城』第15号の感想
 ・改訂版 続・心理療法における外在化の意義を問う
 ・2017年7月例会報告:カント『純粋理性批判』原則の分析論 緒言〜第2章第3節2
 ・ルソー『人間不平等起原論』の歴史的意義を問う
 ・夢の解明に必須の学問を学ぶ――一会員による『“夢”講義(4)』の感想
 ・ヒュームの経済思想――『政治論集』を読む
 ・現代日本の政治家の“失言”を問う
 ・2017年8月例会報告:カント『純粋理性批判』経験の類推
 ・障害児の子育ての1年間を振り返る
 ・新しい国家資格・公認心理師を問う
 ・経済学の原点を問う――哲学者としてのアダム・スミス
 ・2017年9月例会報告:カント『純粋理性批判』経験的思惟一般の公準その他
 ・徒然なるままに――40歳を迎えて
 ・過程的構造とは何か――一会員による『“夢”講義(5)』の感想
 ・〔改訂版〕新自由主義における「自由」を問う
 ・2017年10月例会報告:カント『純粋理性批判』反省概念の二義性
 ・続・徒然なるままに――40歳を迎えて
 ・教育実習生に説く人間観の歴史
 ・2017年11月例会報告:カント『純粋理性批判』先験的弁証論 緒言・第一篇
 ・南郷継正の人生は弁証法の弁証法的発展である――一会員による『“夢”講義(6)』の感想
 ・改訂版・初学者に説く経済学の歴史
 ・2017年12月例会報告:カント『純粋理性批判』序文と緒言