(1)「弁証法の学び編」を読む
(2)「弁証法とは何か」を確認する
(3)労働と疎外の関係を問う
(4)「技とは何か」を考える
(5)弁証法・労働論・技術論は重層構造をなしている
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(1)「弁証法の学び編」を読む
本稿は,南郷継正『なんごうつぐまさが説く 看護学科・心理学科学生への“夢”講義(2)』(現代社,以下,『“夢”講義(2)』とする)にしっかりと学び,その学びの成果を認める論考である。
本年は,『“夢”講義』全6巻を研究会として組織的に学び,その成果を言語化しようとすることによって,より学びの質を深めていく年にしたいと,年頭言で宣言しておいた。本稿は,2月に掲載した『“夢”講義(1)』の感想に続く第2弾である。
では,『“夢”講義(2)』にはどのような内容が説かれているのか。ここに関わって,「プロローグ――まえがきに代えて――」では,次のように説かれている。
「そこをふまえて,すなわち第二巻である本書は第一巻の認識論の学習をふまえて,そのあなたの「アタマとココロ」の見事な使いかたの基本となる学びを中心にすえて,説いてあります。
では「見事な使いかたの基本となる学び」とはなんでしょうか。読者のみなさんには,およその推測はついているはずです。端的にいえば,それは弁証法の学びです。」(p.16)
すなわち,本書ではアタマとココロの見事な使いかたの基本となる学び=弁証法の学びを中心にすえて説いてあるということである。
ここで確認しておくべきことは,そもそも『“夢”講義』は,読者のアタマをよくするためにこそ説かれているということである。第一巻では,アタマとココロのはたらきを立派にするための学問である認識論の基本が説かれ,それを踏まえて第二巻では,アタマとココロの見事な使いかたの基本となる学び=弁証法の学びが説かれていくということである。したがって,本書をなんらかの客体の研究書として,第三者的に読んでいては意味がない。そうではなくて,自らの主体の問題として,自分のアタマをよくするためにはどうすればいいのかという観点を把持しながら,主体的に読み込んでいく必要があるのである。
「プロローグ――まえがきに代えて――」では続いて,三浦つとむさんの『認識と言語の理論(第一部)』が引用され,これが夢の問題に取り組むヒントになったと説かれている。そのうえで,読者に不足しているのは弁証法の学びであるとして,三浦つとむ『弁証法はどういう科学か』は本当に基本の書なので,学問レベルの問題,特に“夢”の問題には歯が立たないと断言されている。そのうえで,次のように説かれていくのである。
「私は読者のみなさんにしっかりとした実力をつけてほしいと願っているので,恩師の著作に不足するところを,この『“夢”講義』でも説(解)いてきています。それで第一巻は「認識論入門」ということになっており,本第二巻は,そこを深める実力養成のための学問,すなわち「弁証法の学び編」となっているのです。
恩師の著作の「弁証法」と「認識論」はいってみれば単層レベルの単純なものでしかありません。学問レベルの問題を解くには,単層弁証法や単層認識論であってはなりません。必ず重層構造のものが要求されます。
それはなぜかというと,学問の対象である,自然も社会も精神もすべて重層構造で成り立っているからです。(中略)
本書は“夢”を説きながらも,そこに必須の重層的な弁証法への学びがしっかりと説かれていくことになっています。」(pp.22-23)
ここでは,三浦つとむさんの弁証法は単層レベルなので,学問の問題を解くためには不十分であり,重層構造で成り立っている学問の対象を説くための重層的な弁証法をしっかりと説いているのが本書である旨,説かれている。
そこで本稿では,本書から重層的な弁証法をしっかりと学び取ることを第一の目的として,その他,本書で説かれている重要な内容も取り上げて,理解を深めていきたいと思う。連載の第2回では弁証法を直接取り上げ,第3回では労働と疎外を取り上げる。労働と疎外は,人間を理解するうえで欠くことのできない概念であり,かつ,われわれが執筆しようとしている「新・社会とはどういうものか」においても核となる概念になるはずである。そこで,しっかりとこの概念を理解しておきたい。連載の第4回では,技術論を取り上げる予定である。技術論は,南郷継正先生の先駆的な業績であるし,これまた人間を理解するうえでは非常に大切なポイントとなってくるからである。
では次回以降,上記の計画にしたがって説いていくこととする。今回の最後に,『“夢”講義(2)』の目次を掲載しておく。
なんごうつぐまさが説く
看護学科・心理学科学生への“夢”講義(2)
【 第1編 】 初学者に説く「弁証法とはなにか」
第1章 「弁証法とはなにか」を弁証法的に説く
第1節 弁証法とはなにか
第2節 弁証法の対象は世界全体(森羅万象)である
第3節 弁証法の起源は古代ギリシャの学問形成過程にある
第4節 弁証法という名は歴史的な意味をもっている
第5節 弁証法と弁証術の違いを説く
第2章 弁証法の学びかたを説く
第1節 弁証法に必要な自然・社会・精神の学び
第2節 弁証法の具体的な学びかた
【 第2編 】 弁証法的に説く「夢とはなにか」
第1章 「いのちの歴史」から説く夢をみる実力への過程
第1節 頭脳活動の本体は脳全体である
第2節 再び,看護学生からの手紙について
第3節 「夢とはなにか」の問いかたを問う
第4節 魚類から両生類への脳の実体としての実力の発展
第5節 サル(猿類)における問いかけ的認識の芽ばえ
第6節 夢は睡眠中に脳が勝手に描いている像である
第2章 夢にかかわって「労働とはなにか」を問う
第1節 労働の結果は哲学用語「疎外」として説かれている
第2節 人間は労働することによって必ず「疎外」される存在である
第3節 労働とは目的をもって対象にはたらきかける行為である
第3章 夢へといたる認識の発展過程を説く
第1節 夢は脳が勝手に描いている認識=像の一つである
第2節 認識=像形成の原点は外界と五感器官にある
第3節 認識=像は脳のなかで創りかえられる
第4節 人間は教育されて外界を勝手気ままに描く実力をつける
【 第3編 】 看護の事例から「夢とはなにか」を説く
第1章 看護にかかわっての「痛みとはなにか」を説く
第1節 再び,夢にうなされる事例を説く
第2節 痛みは神経の重要なはたらきの一つである
第3節 運動させなければ治らない神経の痛みがある
第4節 患者の痛みを見事にやわらげた看護の技とは
第2章 神経と夢のかかわりを説く
第1節 神経のはたらきが夢を描かせる事例
第2節 看護の視点から,夢にうなされる事例を読み解く
【 第4編 】 学問的に説く「夢とはなにか」序論
第1章 夢を学問的に解明するとは
第1節 唯物論の立場からしか夢は解明できない
第2節 赤ちゃんの夜泣きの構造と夢にうなされる構造
第3節 人間にとって夢は必然性である
第4節 問いかけ的認識の誕生が夢の大本である
第5節 人間の神経のはたらきは昼間と夜間とで異なる
第6節 学問書は体系的に説かなければならない
第7節 夢に関する学問的でない書物の一例
第2章 夢にかかわる人間の生理構造を説く
第1節 人間は労働によって特殊な生理構造をもつにいたる
第2節 過程的構造の解明に弁証法は必須である
第3節 人間は立つことにより脳のはたらきに変化が生じる
第4節 人間は労働により質的に違った像を形成するにいたる
第5節 人間にとっての睡眠とはなにか
第6節 呼吸とはなにかから解く「睡眠時無呼吸症候群」
【 第5編 】 看護への夢を実現するために
第1章 看護に重要なこととはなにか
第1節 すべてを看護の問題として
第2節 観念的二重化の実力が看護の見事な実力となる
第2章 「看護技術論」の柱を説く
第1節 そもそも技とはなにか
第2節 看護技術は実体・認識への技である