2013年02月06日

2013年1月例会報告:ヘーゲル『歴史哲学』を読む前提としての世界歴史の全体像(2/10)

(2)林健太郎『歴史の流れ』要約1:原始社会、オリエント社会、古代社会

 前回は、わが研究会の1月例会の場において、報告担当者から提示されたレジュメを紹介しました。今回から4回に分けては、林健太郎『歴史の流れ』を要約したものを紹介していくことにします。

 今回は、原始社会、オリエント社会、古代ギリシャ社会について説かれた部分です。ここでは、人間が(道具を媒介として)自然に能動的に働きかけるようになったことが人類の歴史の原点であり、生産力の拡大につれて私有財産および階級が発生し、また他共同体との戦争が生じることによって国家が成立していったこと、古代オリエントの大河周辺において、人海的な灌漑工事によって耕地を拡大していくために、絶対的な権威をもった王が多数の共同体を従えるという体制がつくられていったこと、こうしたオリエントの文明がギリシャに伝えられて、市民(=農地所有者)が奴隷に生産的労働を任せながら政治的・学問的・芸術的な活動に従事するという体制のもとで、文化が大きく発展していったことが説かれています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

林健太郎『歴史の流れ』要約1

1.原始社会
 人類が他の動物と違うところはどこにあるのか。

 端的には、他の動物が自然の恩恵によって受動的に生活するのに対して、人間は自然に働きかけ、これを積極的に利用することで生活するという点にある。そのための媒介として道具を使用するということが人間の本質的な特徴である。

 最初は石で道具を作っていたが、次第によく磨いた石器がつくられるようになった。物を入れる土器も作られるようになり、食物の保存ができるようになると、人類は次第に集落を形成するようになった(後には銅や青銅、鉄が使われるようになった)。

 集落は次第に血縁に基づく氏族が形成されるようになったが、そこでは階級の区別は存在しなかった。狩猟から農業が行われるようになっても土地は共有であり、氏族の長はいわば第一人者として指揮をした。収穫を祈って、絵を描いたり、踊ったりするなど、当時は生産活動と芸術、宗教などが一体として存在していた。

 階級の誕生は私有財産の発生による。農業が発展し、農産物の余剰が生まれてくると、有力者の手中に財産が集中し、貴族と平民というような階級の分裂が始まったのである。

 生産力の拡大とともに集落が拡大すると、戦争が起こるようになった。戦争は指揮者の権限を高めるとともに、敗者を奴隷として隷属させることになり、貴族、平民、奴隷という区別がさらに明瞭になった。こうした集団を統括するために公的権力が形成されるようになり、国家が成立した。


2.オリエント社会
 中でも大きな統一国家を形成したのはオリエントである。これは何故か。

 端的には、オリエントは大河周辺に豊沃な黒土地帯が広がっており、農業に適していたからである。しかし、この大河の洪水の害をいかにして防ぐかということが大きな問題だった。運河や貯水池を作る事業は、到底少数の人間ではできないため、大きな統一国家の形成を促し、同時に強大な権力を持つ君主とその統治機関としての官僚制度を生み出すことになった。これらの国家においては、王は宗教上の首長をも兼ねてその権力は絶対的であり、官僚は貴族階級の独占に属し、生産に従事する人々は奴隷と呼べる状態だった。

 その1つであるエジプトでは、世界で最初に組織的な文字が作られた。また学問上でも大きな貢献をなし、農業上の必要から幾何学や天文学が発達した。一方、メソポタミアはハンムラビ法典が作られ、人民を貴族、平民、奴隷の三階級に分かって、それぞれの権利や義務を規定した。またエジプトと同じように、天文学が発達し、太陰暦や十二進法が生まれた。

 エジプトとメソポタミアの間をつなぐシリア、パレスチナ地方にはフェニキア人、ヘブライ人の二民族があった。フェニキア人は早くから海上に発展して広く商業を営み、オリエントの文明を西方に広めた。ヘブライ人は唯一神ヤーヴェを信仰し、当時、生活の利害に結びつけられていた宗教を、人間の精神生活の指導者として道徳的内容をもつものに高めた。これはのちにキリストによって、普遍的な全世界に広められた。

 オリエントの様々な民族は、後にペルシアによって政治的に統一された。


3.古代社会
 こうしたオリエントの文化はギリシアに伝わり、そこで西洋文明の基が築かれたのであるが、その媒介となっったのは、ヒッタイトやフェニキアに加えて、エーゲ文明である。エーゲ文明は、フェニキアより先に海上に乗り出し、エジプト文明の影響を受けながら発達し、地中海の海上を支配した。また、国内には巨大な宮殿を建設し、繊細な感覚を生かして、絵画や陶器、金工品を残した。

 しかし、エーゲ文明は北から移住してきたギリシア人によって破壊された。ギリシア半島は土地がせまく山岳が錯綜して平地にめぐまれなかった上に、次から次へと北方から移住してきたので、それに押し出される形でエーゲ海の島々から小アジアの海岸にかけて居住したのである。その地理的環境から、統一国家は形成されず、政治の単位はポリスという小さな都市国家に止まった。ただ、彼等はフェニキア人からアルファベットを学んでギリシア語を作ると、すぐれた神話や文学を創造し、これらによって堅い同胞意識を育んだ。 

 ポリスは最初、王の支配のもと農業が営まれていたが、次第に貴族が財産を増大して有力となり、貴族政治を布くようになった。やがて人口増加により、新たな農地を求めて植民活動が活発に行われるようになった。植民地が発展し、本国との商業が盛んになると、植民地向きの商品をつくる工業が発達すると同時に、この工業労働のため多数の奴隷が本国へ送られるようになった。こうして奴隷労働に基づく自由な都市生活が形成されたのである。その結果、学問が発達し、世界最初の哲学や科学が誕生した。また、ポリス内部では、新興商工業階級が貴族の政権独占に対して反抗し、民主的政治が確立することとなった。

 このようなポリスの中で、最も発展したのはアテネである。そこでは王政から民主政治への発展が典型的に行われた。まず貴族と平民との争いが激化して、内乱の危機が迫った。負債のために奴隷の境遇に落ちる市民が多かったのである。こうした状況の中で、平民の支持を背景として、政権を奪取し、独裁政治を布く僭主が現れるようになった。アテネは、僭主ペイシストラトスの時代にギリシア商業の中心となり、有力な海軍国となった。その後、僭主による独裁が排除され、全市民からの平等な選出による会議によって国事を決することになった。

 一方、スパルタでは、民主主義が発達せず、最後まで王が存在した。これは、スパルタが内陸国で商業が発達しなかったということ、農業奴隷が多数存在し、それを抑えるために強力な軍事組織を必要としたことによる。

 このような発展を辿ったギリシア民族は、東方の大国であるペルシアからの侵略を防いだことにより、全盛時代を迎えることとなった。特に、最大の功績をあげたアテネは、多くのポリスを連ねてデロス同盟をつくり、いわばアテネ帝国を築いた。この時代のアテネでは、ギリシア彫刻や劇などの文化が大きく発達した。

 しかし、アテネの横暴に対して同盟諸市が不満を抱くようになり、それを背景にスパルタとアテネの戦争が起こった。アテネは敗北し、勝利したスパルタも征服地に貴族政治を強要して民心を失い、ギリシアは混沌たる闘争の場と化した。

 この没落期の中からすぐれた哲学が誕生してきた。イオニアで発生した自然哲学は、アテネに移るに至って新しい哲学となった。ソフィストと呼ばれる一団の哲学者により、世界の本質というよりも、世界の本質を究明する人間の認識能力のほうに目が向けられるようになったのである。この頃、ソクラテスが出てギリシア哲学の出発点となり、プラトンからアリストテレスを経て、哲学は現実の科学と結びつき、科学の基礎が築かれた。これらの哲学者は、必ずしも民主主義の支持者ではなかった。

 混乱するギリシアを征服、統一したのがマケドニアである。アレクサンダーはさらに東方に遠征し、インドにまで広がる大帝国を建設した。東西の交通が開け、商業が活発に行われるようになった。その中心地であるアレクサンドリアでは、学問も大いに発達した。

 ただし、その中身はギリシア文明から変化した。ギリシアにおいては、個人はポリスの一員として位置づけられていたが、ポリスが失われたことにより、個人主義的な人間観が現れてきた。それに伴い、人生いかに生くべきかが問われるようになったのである。そのため、哲学は処世哲学としての色彩を持つようになった。また、その答えを求めて、東方の神秘的な宗教が急速に広まるようにもなった。
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 ・高校生に説く立憲主義の歴史
 ・三浦つとむ『認識と言語の理論』を読む
 ・2016年10月例会報告:ヘーゲル『哲学史』ヤコービ、カント
 ・専門家教育には何が必要か――一会員による『科学的な看護実践とは何か(下)』の感想
 ・アダム・スミス『国富論』を読む
 ・2016年11月例会報告:ヘーゲル『哲学史』フィヒテ,シェリング,結語
 ・3年間の育児を振り返る
 ・近代教育学の成立過程を概観する
 ・2016年12月例会報告:ヘーゲル『哲学史』のまとめ
 ・年頭言:機関誌の発刊を目指して
 ・激動する世界情勢を問う
 ・『障害児教育の方法論を問う』から何を学ぶべきか―一会員による感想
 ・一会員による『学城』第4号の感想
 ・2017年1月例会報告:シュヴェーグラー『西洋哲学史』、ヘーゲル『哲学史』におけるカント『純粋理性批判』
 ・斎藤公子の保育実践とその背景を問う
 ・認識の形成がうまくいくための条件とは何か?――一会員による『“夢”講義(1)』の感想
 ・本来の科学的な教育とは何か
 ・2017年2月例会報告:カント『純粋理性批判』序文
 ・システムズアプローチを弁証法から説く
 ・一会員による『学城』第14号の感想
 ・ルソー『学問芸術論』を読む
 ・新大学生に説く「大学では何を如何に学ぶべきか」
 ・2017年3月例会報告:カント『純粋理性批判』緒言
 ・斉藤喜博から何を学ぶべきか
 ・重層弁証法を学ぶ――一会員による『“夢”講義(2)』の感想
 ・小中一貫教育を問う
 ・ヘーゲル『哲学史』を読む
 ・2017年4月例会報告: カント『純粋理性批判』先験的感性論
 ・文法家列伝:宮下眞二編
 ・改訂版 心理療法における外在化の意義を問う
 ・マルクス思想の原点を問う
 ・2017年5月例会報告:カント『純粋理性批判』先験的論理学の構想その他
 ・弁証法が技化した頭脳活動を味わう――一会員による『“夢”講義(3)』の感想
 ・教育の政治的中立性を問う
 ・日本経済の歴史を概観する
 ・2017年6月例会報告:カント『純粋理性批判』純粋悟性概念の演繹
 ・一会員による『学城』第15号の感想
 ・改訂版 続・心理療法における外在化の意義を問う
 ・2017年7月例会報告:カント『純粋理性批判』原則の分析論 緒言〜第2章第3節2
 ・ルソー『人間不平等起原論』の歴史的意義を問う
 ・夢の解明に必須の学問を学ぶ――一会員による『“夢”講義(4)』の感想
 ・ヒュームの経済思想――『政治論集』を読む
 ・現代日本の政治家の“失言”を問う
 ・2017年8月例会報告:カント『純粋理性批判』経験の類推
 ・障害児の子育ての1年間を振り返る
 ・新しい国家資格・公認心理師を問う
 ・経済学の原点を問う――哲学者としてのアダム・スミス
 ・2017年9月例会報告:カント『純粋理性批判』経験的思惟一般の公準その他
 ・徒然なるままに――40歳を迎えて
 ・過程的構造とは何か――一会員による『“夢”講義(5)』の感想
 ・〔改訂版〕新自由主義における「自由」を問う
 ・2017年10月例会報告:カント『純粋理性批判』反省概念の二義性
 ・続・徒然なるままに――40歳を迎えて
 ・教育実習生に説く人間観の歴史
 ・2017年11月例会報告:カント『純粋理性批判』先験的弁証論 緒言・第一篇
 ・南郷継正の人生は弁証法の弁証法的発展である――一会員による『“夢”講義(6)』の感想
 ・改訂版・初学者に説く経済学の歴史
 ・2017年12月例会報告:カント『純粋理性批判』序文と緒言