(1)原田メソッドの教育学的意義とは
(2)なぜ原田メソッドを開発したのか
(3)原田メソッドとはどういうものか
(4)自分を指導するもう一人の自分を創出する意味とは
(5)原田メソッドは目的像に基づいて行動するという人間独自のあり方を育成する
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)原田メソッドの教育学的意義とは
この夏、ロンドンオリンピックが行われました。日本はバドミントンや卓球、バレーボールなど、これまでメダルを獲得できなかった競技で大活躍をし、金・銀・銅合わせて38個のメダルを獲得しました。これは夏季オリンピックのメダル数としては最大のものです。昨年、ワールドカップで優勝したなでしこジャパンも、破れはしたものの、決勝戦でアメリカを相手に奮戦しました。10日の早朝にもかかわらず、視聴率は29.1%と高い数値を記録しました。
一方、なでしこジャパンの試合があった同じ日に、日本の国会では非常に重要な法案が成立していました。「消費税増税を柱とした社会保障と税の一体改革関連法」です。10日夕の参院本会議で、民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決、成立しました。現行5%の消費税率は2014年4月に8%、15年10月には10%と2段階で引き上げられます。野田佳彦首相は成立後の記者会見で「増収分はすべて社会保障で還元されることを約束する」とコメントしました。
しかし、消費税は弱者から強者へと富のけ配分を促す性質を持っており、この野田首相のコメントが全くの空想そのものでしかないことは、これまでも本ブログで取り上げてきた通りです。ただ、本稿で取り上げたいのは、消費税増税そのものではなく、消費税増税を許してしまった国民のあり方です。
本来ならば、消費税増税は国家のあり方に大きく関わる問題であり、国民的な議論がなされてしかるべきです。共同通信社が11、12日実施した全国電話世論調査によると、消費税増税法成立に基づく税率引き上げに反対と回答したのは56・1%で、賛成の42・2%を上回りました。ならば尚更、消費税増税に対する大きな声が上がって列島騒然という状況になってもおかしくなかったのに、連日オリンピックの様子ばかりが報道され、国民としても、消費税増税の問題は片隅へ追いやられてしまっていたというのが現状ではないでしょうか(あえて言いますが、オリンピックに熱中することそのものが悪いと言っているわけではありません。それに熱中するあまり大事な問題を忘れてしまっているのではないかと問題提起しているのです)。
こうした国民のあり方について、日刊ゲンダイの記事には次のような痛切な批判が載せられています。
http://asumaken.blog41.fc2.com/blog-entry-6615.html
「TVのバカなアナウンサーの絶叫によって、みなが『頑張れニッポン』になってしまう危うさ。主体性がないから、すぐにアホなメディアに洗脳されてしまう怖さ。これほど無邪気な国民もいないのではないか。だから、野田のようなペテン首相にコロッとだまされてしまうのだ。」
簡単に言えば、今の日本人は自分のアタマで考えることをせず、メディアに大きく左右されてしまうと指摘しているのです。主権者たる国民が、自分のアタマでしっかりと考え、判断し、行動していく能力を持っていないというのは、深刻な問題であるといわなければなりません。
このような現状は、現代日本の教育のあり方に対して、厳しい問いを投げかけているものだと言えるでしょう。結果として主体性ある人間を育てることに成功しなかったのはなぜなのか、主体性ある人間を育てていくためにはどうしたらよいのか。これが、現代日本の教育にとっての大問題として浮上しているのです。
こうした問題を解決していくための手がかりをえるためには、何よりもまず、諸々に試みられている優れた教育実践に着目し、教育学的な観点から評価を加えていくことが大切だと考えられます。
この観点から注目に値する教育実践を積み重ねてきた教師として、「自立型人間の育成」という教育理念を掲げる原田隆史氏がいます。原田氏は大阪の松虫中学校に勤務し、陸上部顧問として7年間で13回の日本一選手を育成しました。また、生活指導の面でも大きな成果を挙げ、地元大阪では「生活指導の神様」と呼ばれていました。20年間教員として勤めた後は、天理大学の講師として教鞭をとるとともに、自らが立ち上げた私塾である教師塾において、現場の教師の養成に力を注いでいます。現在、原田総合教育研究所を立ち上げ、企業や学校などを対象に様々な講演活動も行っています。
原田氏の掲げる自立型人間とは、自分で夢を描いて、方法を考えて実践し、結果を出す人間ということです。そのために長期目的・目標設定用紙などの目標達成のためのツールを開発し、そうしたツールを生かした指導を行っていきます。これは原田メソッドと呼ばれています。
本稿では、この原田メソッドが教育学的にいかなる意味を持っているのかという点について検討したいと思います。
そのために、まず原田氏がどういった問題意識から「自立型人間の育成」という教育理念を掲げ、原田メソッドを開発するにいたったのかを見ていきます。続いて、その具体的な方法論としての原田メソッドとはどのようなものをなのかを見ていきます。最後に、教育とは何かを踏まえて、その原田メソッドがいかなる意味を持っているのかを明らかにします。