2012年03月27日

2012年3月例会報告:シュテーリヒ『西洋科学史』第1章〜第4章(2/5)

今回も、前回に続いて報告の概要を紹介します。


第三章 予備条件、発端、あけぼの――史的序章
I.科学成立の一般的予備条件
1、自然の予備条件
気候が安定し、その他の生活諸条件もある程度ゆるやかになること。

2、社会の予備条件
国家としての統一と社会的分業。社会的・文化的な触れあい。

3、精神的予備条件
a 言葉 b 文字 c 数 d 測定

4、総括
科学を成立させるに至った文化の歩みの二筋:一方は物質的な集積・蓄積・保存、他方は精神的なそれ。

II.ギリシア以前の科学、科学的思考の前触れと発端
1、エジプト

a、数学
取引における必要から。10進法、位どり法を知らず。土地測量や建築術に関して幾何学。

b、天文学
神聖な意味をもつナイルの洪水を正確に予知するためにエジプト暦(太陽暦)を編む。

c、化学
金と銅と錫の加工。医薬。

d、医術
実際の治療術は高度に発達していたが、肉体の構造や働き方の知識は未発達。

2、バビロニア
a、数学
60進法、位どりの原理を知る。

b、天文学
地上の過程はすべて天上の過程に支配されると信じたため、天の過程を詳しく洩れなく観察することが生死の関心事となった(これが時間を精密に測るという要求と合流)。太陽と月の食の予言がとくに重視された。

3、インド

4、中国

5、イスラエル
精神・事物の内的綜合としての歴史を経験し歴史の筆を起こした最初の民族(旧約聖書)。

6、東方を継ぐ者(総括)
科学の発展の流れの源流はギリシアにあるが、これもまた東方の古代文化民族を経てきたもの。東方には実地的知識はあったが、理論的・体系的な知識はまだ見られなかった。

第四章 ギリシア科学の誕生
1、おもな時代区分
上昇期:ドリア人進入(前1100年頃)から前6世紀頃まで
開花期:ペルシアに勝利(前480年)、ペリクレスの黄金時代、ソクラテスの死(前399年)まで
衰亡期:ヘレニズム時代

2、国土・民族・環境
島が多く航海しやすい海、交易による富、混血。他の諸民族の言語・風習・宗教観などと接触することで、硬直した宗教的伝統・習俗から脱する。

3、母胎としての哲学
ギリシア人は、個々の問題からではなく、もっとも普遍的で困難で包括的な問題(全世界の成立・存在するものの全体)から始めた。イオニア人は、現存するものにただ一個の最初の起源(原初物質)を求めた。
ギリシアには、統一的組織によって中心的・精神的権威を手中に収め枢要な世俗的権力を握ってしまうような神官階級が存在しなかったために、宗教と哲学との闘争で宗教が圧倒的優位となることがなかった。

4、哲学、数学、自然科学
古代ギリシアにおいては、諸科学は哲学から分化しきっていなかった。古代ギリシア社会は奴隷制を土台にしており、肉体労働は市民にふさわしくないとされていたから、肉体労働から遠い分野ほど収めた成果は高かった。ギリシア人は、哲学や数学は高い成果を収めたが、天文学、物理学、化学など本来の自然科学ではたいした業績はない。ただ、医術は別。

I.数学
1、タレスとアナクシマンドロス
タレスはエジプト人が経験的に知っていた規則を普遍法則としてとらえ返した(直観的に)。穴串万土ロスも幾何学に携わった。  

2、ピタゴラスと彼の学派
自分の教えを伝え完成するために結社を設立。幾何学を純粋に抽象的な科学として理解。数の中にこの世界を組み立てている素材があるとした。

3、幾何学の“三問題”
円の求積法、角の三等分、立体の二倍法。これらはコンパスと定規だけでは解けないが、解きようのない問題を考えたことの副産物として、注目に値する一連の発見がなされた。

4、プラトンと数学
プラトンは数学(幾何学)を教育と教養の基礎と考えた。

5、エウドクソス
比例の研究(黄金分割など)。

6、メナイクモス
円錐曲線の説を創始。

II.天文学
バビロニアに比して、精密な観測や測定を苦手とした。直観的な観念や理論の面が強み。

1、最古の観念
地中心的世界像+平らな円板としての大地。前者はコペルニクス時代まで続いたが、後者はまもなく没落した。ピタゴラス派は、前者をも否定し、大地を“中心火”の周りをめぐる一つの天体とした。ピタゴラス派は、全世界の調和(音楽的に理解すべきもの)を考えた(定量的かつ神秘的な考え方)。

2、アナクサゴラス
世界の始まりにかかわって、純合理的な理論をつくった。カオスにヌースが浸み通って渦巻き運動を生じさせた。これにより外層と内層の二層が分別。世界の全過程を通して物質の量に変化がない。

3、プラトン
プラトンが天文学を重視したことが箔つけに役立った。

4、アリストテレス
経験家アリストテレスも天文学では普遍的根本命題から演繹しようとする理論家であった。天体は球。 

5、エウドクソス
すぐれた観測家。ただし地球を静止させて全天体が地球のまわりを回転するとしたかぎりで退歩。

6、ヘラクレイデス
ある程度まで大地中心的な体系を打ち破った。

III.物理学(自然哲学)
近代自然科学の重要な基本概念や基本表象を、ギリシア人は芽生えの形で示しているし、合法則的な秩序が自然を統べているという一般理念をはぐくみ育てもした。

1、普遍的自然法則の理念
ギリシア精神の実にさまざまな分野、哲学にも文学的著作にも科学にも、全存在のもっとも底には合法則的な秩序があるという理念が現れている。

2、ギリシアの自然思想の諸概念
タレス、アナクシマンドロス、アナクシメネスは、世界を成立させている一種類の原質を(宗教的観念の手引によらずに)求めた。さらに、エンペドクレスの4元素説、デモクリトスの原子論。

3、実験の始まり
ギリシアにおいては、経験を基盤に推論することで科学が始まったが、実験(自然の経過へ積極的に干渉することを含めて一定の予備手段を講じ、一定の制約を人為的に設ける)にまでは至らなかった。物理的科学や医学では実験の例が見られるが、これは例外的である。

IV.生物学
1、アリストテレス――動物学の父
経験家であり体系家。生物学の土台を据え、その後2000年間乗りこえられなかった。

a、アリストテレスの生涯と仕事
マケドニアの小都市スタゲイラに生れる(前384年)。アテナイに出てプラトンのアカデメイアへ。プラトン死後、各地を点々としたのち、アレクサンドロス大王の訓育にあたる。その後、アテナイに戻ってリュケイオンに学校を開く。死の前年、アテナイにおける反マケドニア感情の高まりの影響でアテナイを去り、前322年に亡命先で没した。アリストテレスの著作は当時のあらゆる知識を包括する。

b、アリストテレスと動物学
合目的性の考え。質料(素材)と形相(形態)間の相互作用。生物においては肉体が素材(質料)であり、形成し駆りたてるもの(形相)が霊魂であり、これにエンテレケイアという語をあてた。動物を部類(綱)や類(種)に分け、性と生殖、遺伝、養分、生長、適応について論じた。

c、評価
彼の仕事には少なからず誤りも含まれているが、その基本的な精神(経験から出発し物質に即していこうとする研究の精神、即物的に先入主ではなく真実を追求する精神)が意義を失うことはない

2、テオプラストス――植物学の父
植物を綱に分かち各構成部分を区別した。何百もの植物を詳しく記載し、地理分布を調べた。

V.ヒポクラテス――医学の父
多くの学派に分岐していた医術の豊かな伝統を背景にして登場。多面にわたって実り豊かな基礎医術の本を多く残した。病気の現象・経過を性格に観察し記載。健康な生活法による予防を高く評価。

VI.歴史記述の父祖たち
1、ホメロスとヘシオドス
初期ギリシア文明の姿(耕作の仕方、職人の仕事、家族生活、戦争・航海など)について、ホメロスの作品から多くを知ることができる。イリアスの物語は史実性ももつ。

2、ヘロドトス
ペルシア戦争を扱った『歴史』において、ギリシア本土のみならずエジプト・オリエントについても前史から述べる。事実上一個の(最初の)“世界史”。記述は戦争や政治のみならず、文化・習俗にまで及ぶ。批判的慎重さ(対立する両派に対して公正であろうとする)、歴史についての悲劇的な理解も特徴。

3、トゥキュディデス
ペロポネス戦争について記述。ヘロドトスに比して文化史的関心は薄いが、批判的態度は著しく成熟しているし、悲劇的な基本的立場も共通している。


以上の報告を受けて、次の2点について議論しました。


論点1:古代ギリシアとそれ以前の社会は科学史においてどう異なるか
論点2 古代ギリシアの哲学者の問題意識とその必然性とは


次回から議論の中身を具体的に報告したいと思います。
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 ・2016年5月例会報告:ヘーゲル『哲学史』学問の復興
 ・ブリーフセラピーを認識論的に説く
 ・夏目漱石の思想を問う
 ・コメニウスの歴史的意義を問う―『大教授学』をとおして
 ・オバマ米大統領の「広島演説」を問う
 ・2016年6月例会報告:ヘーゲル『哲学史』近代哲学の黎明
 ・心理士の上達に必須の条件――一会員による『初学者のための『看護覚え書』(4)』の感想
 ・夏目漱石の中・長編小説を読む
 ・2016年7月例会報告:ヘーゲル『哲学史』デカルト・スピノザ
 ・改訂版・観念的二重化への道
 ・ロックの教育論から何を学ぶべきか
 ・文法家列伝:ソシュール編
 ・2016年8月例会報告:ヘーゲル『哲学史』「悟性形而上学」第二部・第三部
 ・どうすれば科学的な実践が可能となるか――一会員による『科学的な看護実践とは何か(上)』の感想
 ・夏目漱石『明暗』の構造と結末を問う
 ・ルソーの教育論の歴史的意義を問う
 ・2016年9月例会報告:ヘーゲル『哲学史』バークリー〜ドイツの啓蒙思潮
 ・高校生に説く立憲主義の歴史
 ・三浦つとむ『認識と言語の理論』を読む
 ・2016年10月例会報告:ヘーゲル『哲学史』ヤコービ、カント
 ・専門家教育には何が必要か――一会員による『科学的な看護実践とは何か(下)』の感想
 ・アダム・スミス『国富論』を読む
 ・2016年11月例会報告:ヘーゲル『哲学史』フィヒテ,シェリング,結語
 ・3年間の育児を振り返る
 ・近代教育学の成立過程を概観する
 ・2016年12月例会報告:ヘーゲル『哲学史』のまとめ
 ・年頭言:機関誌の発刊を目指して
 ・激動する世界情勢を問う
 ・『障害児教育の方法論を問う』から何を学ぶべきか―一会員による感想
 ・一会員による『学城』第4号の感想
 ・2017年1月例会報告:シュヴェーグラー『西洋哲学史』、ヘーゲル『哲学史』におけるカント『純粋理性批判』
 ・斎藤公子の保育実践とその背景を問う
 ・認識の形成がうまくいくための条件とは何か?――一会員による『“夢”講義(1)』の感想
 ・本来の科学的な教育とは何か
 ・2017年2月例会報告:カント『純粋理性批判』序文
 ・システムズアプローチを弁証法から説く
 ・一会員による『学城』第14号の感想
 ・ルソー『学問芸術論』を読む
 ・新大学生に説く「大学では何を如何に学ぶべきか」
 ・2017年3月例会報告:カント『純粋理性批判』緒言
 ・斉藤喜博から何を学ぶべきか
 ・重層弁証法を学ぶ――一会員による『“夢”講義(2)』の感想
 ・小中一貫教育を問う
 ・ヘーゲル『哲学史』を読む
 ・2017年4月例会報告: カント『純粋理性批判』先験的感性論
 ・文法家列伝:宮下眞二編
 ・改訂版 心理療法における外在化の意義を問う
 ・マルクス思想の原点を問う
 ・2017年5月例会報告:カント『純粋理性批判』先験的論理学の構想その他
 ・弁証法が技化した頭脳活動を味わう――一会員による『“夢”講義(3)』の感想
 ・教育の政治的中立性を問う
 ・日本経済の歴史を概観する
 ・2017年6月例会報告:カント『純粋理性批判』純粋悟性概念の演繹
 ・一会員による『学城』第15号の感想
 ・改訂版 続・心理療法における外在化の意義を問う
 ・2017年7月例会報告:カント『純粋理性批判』原則の分析論 緒言〜第2章第3節2
 ・ルソー『人間不平等起原論』の歴史的意義を問う
 ・夢の解明に必須の学問を学ぶ――一会員による『“夢”講義(4)』の感想
 ・ヒュームの経済思想――『政治論集』を読む
 ・現代日本の政治家の“失言”を問う
 ・2017年8月例会報告:カント『純粋理性批判』経験の類推
 ・障害児の子育ての1年間を振り返る
 ・新しい国家資格・公認心理師を問う
 ・経済学の原点を問う――哲学者としてのアダム・スミス
 ・2017年9月例会報告:カント『純粋理性批判』経験的思惟一般の公準その他
 ・徒然なるままに――40歳を迎えて
 ・過程的構造とは何か――一会員による『“夢”講義(5)』の感想
 ・〔改訂版〕新自由主義における「自由」を問う
 ・2017年10月例会報告:カント『純粋理性批判』反省概念の二義性
 ・続・徒然なるままに――40歳を迎えて
 ・教育実習生に説く人間観の歴史
 ・2017年11月例会報告:カント『純粋理性批判』先験的弁証論 緒言・第一篇
 ・南郷継正の人生は弁証法の弁証法的発展である――一会員による『“夢”講義(6)』の感想
 ・改訂版・初学者に説く経済学の歴史
 ・2017年12月例会報告:カント『純粋理性批判』序文と緒言