2011年07月18日

心理療法における外在化の意義を問う(1/5)

(1)外在化にはいかなる意義があるのか

 近年,うつ病や統合失調症などの精神疾患の患者が増加しています。それを受けて,最近,次のようなニュースが報道されました。

「4大疾病,精神疾患加え5大疾病に…厚生労働省

 厚生労働省は6日,「4大疾病」と位置付けて重点的に対策に取り組んできたがん,脳卒中,心臓病,糖尿病に,新たに精神疾患を加えて「5大疾病」とする方針を決めた。
 うつ病や統合失調症などの精神疾患の患者は年々増え,従来の4大疾病をはるかに上回っているのが現状で,重点対策が不可欠と判断した。
 同省は同日,国の医療政策の基本指針に精神疾患を加える方針を社会保障審議会医療部会で示し,了承された。この指針を基に都道府県は地域医療の基本方針となる医療計画を作る。
 4大疾病は2006年に重点対策が必要な病気として指針に明記。それを受けて都道府県が,診療の中核を担う病院の整備や,患者を減らすための予防策など,具体的な対策を立てた。
 医療計画は5年に1度見直され,次回は13年に予定している都道府県が多い。
 同省の08年の調査では,糖尿病237万人,がん152万人などに対し,精神疾患は323万人に上る。」(2011年7月7日 読売新聞)

 これは,精神疾患の患者数が「4大疾病」の患者数を上回るまでに増加してしまったために,国が重点的な対策に乗り出した,ということです。このように,精神疾患で苦しんでいる方が増えているのが日本の現状なのです。

 また自殺者数も高止まりしています。年間自殺者数は13年連続で3万人を超えており,うつ病を患っての自殺も多いと考えられています。

 このような現状の中で,精神疾患に対する治療法として,従来からの薬物療法だけではなく,心理社会的な介入も重視されるようになってきました(心理社会的な介入というのは,当事者に対する心理療法(精神療法)をはじめとして,集団に対する集団精神療法,当事者や家族に対する教育的な援助,地域(小社会)に対するアプローチなどの総称です)。たとえば,2010年4月から,うつ病に対する認知行動療法が保険適用可能となりました。認知行動療法というのは,うつ病などの気分障害やパニック障害・強迫性障害などの不安障害等に効果があるというエビデンス(証拠)のある心理療法です。詳しくはいずれ説くとして,簡単には,患者の認知(物事のとらえ方・考え方)や行動を変えることによって,気分障害や不安障害の症状を緩和していこうとする心理療法です。この認知行動療法が保険適用となったということは,国がその効果を認めたということです。厚生労働省は,認知行動療法のマニュアルも作成して,無料で配布しています。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/

 また,統合失調症をはじめとする重度の精神障害者に対するアプローチとしては,「べてるの家」の方法が注目されています。べてるの家というのは,北海道浦河町にある,精神障害等をかかえた当事者の地域活動の拠点のことです。そこで暮らす当事者にとっては,生活共同体,働く場としての共同体,ケアの共同体という3つの性格を有しているとされています。現在,100名以上の当事者が暮らしています。

 べてるの家が注目されているのは,精神障害等をかかえた当事者が起こした事業が成功していることが大きな要因だと思われます。元々は地元特産の昆布の通販から始まりましたが,今ではさまざまな事業展開をみせ,年商1億円を超えているということです。

 このべてるの家で心理社会的な治療的取り組みの中心になっているのが当事者研究とSST(social skills training;社会生活技能訓練)です。特に当事者研究は,べてるの家オリジナルのアプローチであり,世界に誇れる方法論なのではないかと筆者は考えています。これは簡単にいうと,当事者が自分の助け方について研究する,というものです。以下にいくつかの事例が紹介されていますので,是非目を通してみてください。

http://bethel-net.jp/tojisha.html

 SSTというのは,社会生活上必要となる技能(スキル)を,ロールプレイによる練習を通して身につけようというアプローチです。

 この当事者研究とSSTを通して,自分を助ける対処法を見つけて身につけ,実際に社会人として働くことで誇りのある人生を取り戻し,講演や執筆活動を通して広く社会にアピールしているのがべてるの家の当事者の方々なのです。

 さて,認知行動療法にせよ,べてるの家での取り組みにせよ,心理社会的な介入が奏効しています。では,両者に共通する要素には,どのようなものがあるのでしょうか?

 いろいろな要素が考えられますが,本稿では「外在化」という心理療法の技法を取り上げたいと思います。筆者は心理士として認知行動療法も施術していますし,以前べてるの家を見学したこともあります。その体験から浮上した両者の共通性の一つが外在化なのです。

 また,「べてると認知行動療法のインターフェース」をテーマに書かれた『認知行動療法,べてる式。』(伊藤絵美・向谷地生良編著,医学書院)という本においても,「べてると認知行動療法のさまざまな接点」の一つとして外在化が取り上げられています。

 そこで本稿では,この外在化の意義を考察していきます。まずは外在化とはどのような技法であるかを紹介したいと思います。その後,外在化を認識論的に説き,その意義を明らかにしていくつもりです。
posted by kyoto.dialectic at 05:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 認識論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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 ・ケネー『経済表』を読む
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 ・一会員による『学城』第13号の感想
 ・2016年2月例会報告:ヘーゲル『哲学史』新アカデメイア派、スケプシス派
 ・心理士教育はいかにあるべきか――一会員による『医学教育 概論(6)』の感想
 ・仮説実験授業を問う―アクティブ・ラーニングの観点から―
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 ・2016年3月例会報告:ヘーゲル『哲学史』新プラトン派
 ・6年目教師としての1年間を実践記録で振り返る―学級崩壊への過程を説く
 ・2016年4月例会報告:ヘーゲル『哲学史』中世哲学序論〜スコラ哲学
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 ・比較言語学誕生の歴史的必然性を問う
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 ・2016年5月例会報告:ヘーゲル『哲学史』学問の復興
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 ・コメニウスの歴史的意義を問う―『大教授学』をとおして
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 ・2017年3月例会報告:カント『純粋理性批判』緒言
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