2017年09月20日

新しい国家資格・公認心理師を問う(1/5)

目次

(1)公認心理師法が施行された
(2)公認心理師の概要
(3)臨床心理士との比較
(4)公認心理師の意義と限界
(5)基盤となる認識論の構築を目指して

――――――――――――――――――――

(1)公認心理師法が施行された

 2015年12月に改正労働安全衛生法が施行された。この法律に基づき、従業員の心の健康状態を調べる検査を企業などに義務づけたストレスチェック制度が始まった。このストレスチェック制度の背景には、うつ病など精神疾患の発症による労災申請の増加がある。このストレスチェック制度に関して、最近、以下のような新聞記事があった。

「ストレスチェック実施82%、厚労省調べ、義務化後も徹底されず、医師の指導は32%。

 厚生労働省は26日、企業などに従業員の心の健康状態の点検を義務づけた「ストレスチェック制度」の実施状況を初めて公表した。実施率は82・9%にとどまり、実施したうえで部署による違いなどの分析までしたのは64・9%だった。同省は未実施の事業所を指導するほか、従業員が受け終わっている事業所には職場環境の改善につなげるよう促す。

 同制度は従業員のメンタルの不調を防ぐことを目的に2015年12月に開始。従業員50人以上の事業所は年1回、ストレスチェックを実施し、結果を受けて従業員から申し出があれば医師による面接指導などを行わなければならない。

 厚労省は今年6月末時点での状況をまとめた。全体の実施率は82・9%で、業種別では金融・広告業が93・2%で最も高かった。全事業所の従業員のうち、78・0%が同時点までにストレスチェックを受けた。

 医師による面接指導は32・7%の事業所が行っていた。高ストレスの従業員がいなかったことで面接をしなかった事業所もあるとみられるが、厚労省は面接指導が必要なのに受けていない従業員も多いとみている。

 ストレスチェック制度では、結果を踏まえて部署による多い・少ないなどストレスの現状を分析し、仕事の割り振りなども含む職場環境の改善に取り組むことを事業所の努力義務としている。しかし、チェックを実施した事業所のうち分析までしたのは78・3%で、同省によると、2割超は従業員にチェックを受けさせるだけで終わっている可能性が高い。

 一方、厚労省の研究班は15年度の同制度開始後最初の1年間の状況を分析した。それによると、チェック実施後に何らかの職場環境の改善をしていたのは37・0%にとどまった。

 研究班の代表を務める東京大大学院の川上憲人教授は「従業員への調査結果を見ると、ストレスチェックを受け、さらに職場環境の改善を経験した場合にストレスがやや軽減されている」と指摘。「制度の実効性を高めるためにも企業に対策を促していくことが重要だ」と強調する。研究班は今年度、職場環境の改善方法や医師の面接指導に関するマニュアルをつくる計画だ。」(2017年07月27日 日本経済新聞)


 この記事によると、ストレスチェックを実施した事業所は全体の82.9%であり、高ストレス者に対する医師による面接指導を行ったのはわずかに32.7%にすぎず、何らかの職場環境の改善を行ったのも37.0%にとどまっているという。労働者の心の健康を守るために施行された法律が、形式的なものにとどまっている現状がうかがえる。

 筆者も企業においてカウンセリングを行っているが、労働者の心の健康は、さまざまな形で害されているといってよい。長時間労働が当たり前の職場もあれば、質の高い業務を課される部署もある。パワハラや、そこまでいかなくても、上司との関係に悩んでいる方も多い。このような要因によってストレスを感じ、ついにはうつ病を発症して休職に追い込まれるような方も増えているのである。

 メンタルヘルス上の問題は、何も労働者に限定されたものではない。学校現場では、子どもの自殺が問題化している。内閣府が2015年に公表した自殺対策白書によると、1972〜2013年の42年間で18歳以下の自殺者数を日別に調べたところ、9月1日が突出して多かったという。9月1日前後の数日も自殺者数が多く、ゴールデンウィークや春休みの前後も多い傾向があると報告されている。このような中で、次のような取り組みが報道されていた。

「夏休み明け 悩み相談を 「応援委」カード 全小中生に配布へ

 【愛知県】名古屋市教委は新学期に入る九月一日、子どもの悩みに応じる「なごや子ども応援委員会」をPRするカードを全小中学生らに配布する。夏休み明け直後の悩みの顕在化が懸念される中、未然に問題を防ぎたい考えだ。

 応援委は中学校に常駐するスクールカウンセラー(SC)らが、不登校やいじめなどに対応する市独自の制度。二〇一四年に発足した。

 カードは名刺サイズの両面カラー刷りで、小中学生と教職員用の計十七万五千枚を作製した。「こころのこと、からだのこと、おうちのこと、なんでも相談してね!」などと呼び掛け、地域ごとの専用電話番号も記載している。

 全国的には夏休み明けの子どもの自殺が問題になっており、市教委の担当者は「二学期は学校行事が多く、気の重い状態となっている子もいる。不登校などになる前に気軽に相談してほしい」と話している。(安田功)」(2017年8月31日 中日新聞)


 ここでは、夏休み明けに不登校や自殺などの問題が生じないように、中学校のスクールカウンセラーが相談に応じることを周知するカードを配布しているということが紹介されている。

 筆者はスクールカウンセラーとして、週に1回、活動している。その中で、不登校に関する問題は非常に多い。中には、うつ病や統合失調症などの精神疾患を発症しているケースもある。また、思春期特有の発達上の課題で悩んでいる生徒も多い。

 このように、現代日本においては、メンタルヘルス(心の健康)に関わる問題が、さまざまな領域で、多様な形で噴出しているのである。そして、国家レベルでメンタルヘルス対策がなされており、その一環として新しい国家資格が誕生することになった。それが、本稿で取り上げる公認心理師である。

 公認心理師の資格を法定する公認心理師法は、2015年9月に成立し、公布された。そして、公布の日から2年を超えない範囲内において施行されることとされていたのであり、実際、この9月15日に施行された。この法案には、法律案を提出する理由として、次のように記されている。

「近時の国民が抱える心の健康の問題等をめぐる状況に鑑み、心理に関する支援を要する者等の心理に関する相談、援助等の業務に従事する者の資質の向上及びその業務の適正を図るため、公認心理師の資格を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」


 ここに記されているとおり、国民が抱える心の健康に関する問題が多様化し深刻化する中で、心理職に対する社会的ニーズが高まり、その質の担保が求められるようになったために、心理職の国家資格化が実現したといってよい。

 そこで本稿では、この新しい国家資格である公認心理師について、その意義と限界を問うことを目的としている。そのために、まずは公認心理師とはどのような資格であるかを紹介したい。そして、現在最も知名度があり、最も取得が難しいとされている心理系の資格である臨床心理士と比較して、その特徴を浮上させたい。これを踏まえた上で、公認心理師の意義と限界を考察していく予定である。
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 ・全てを強烈な目的意識に収斂させる――一会員による『医学教育概論の実践』の感想
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 ・年頭言:弁証法・認識論を武器に学問の新たな段階を切り開く
 ・「戦後70年」を迎える日本をどうみるか
 ・哲学の歴史の流れを概観する
 ・『ビリギャル』から何を学ぶべきか
 ・必要な事実を取り出すとは――一会員による『医学教育 概論(2)』の感想
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 ・アダム・スミスは古代ギリシャ哲学史から何を学んだのか
 ・マインドフルネスを認識論的に説く
 ・道徳思想の歴史を概観する
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 ・小中一貫教育を問う
 ・ヘーゲル『哲学史』を読む
 ・2017年4月例会報告: カント『純粋理性批判』先験的感性論
 ・文法家列伝:宮下眞二編
 ・改訂版 心理療法における外在化の意義を問う
 ・マルクス思想の原点を問う
 ・2017年5月例会報告:カント『純粋理性批判』先験的論理学の構想その他
 ・弁証法が技化した頭脳活動を味わう――一会員による『“夢”講義(3)』の感想
 ・教育の政治的中立性を問う
 ・日本経済の歴史を概観する
 ・2017年6月例会報告:カント『純粋理性批判』純粋悟性概念の演繹
 ・一会員による『学城』第15号の感想
 ・改訂版 続・心理療法における外在化の意義を問う
 ・2017年7月例会報告:カント『純粋理性批判』原則の分析論 緒言〜第2章第3節2
 ・ルソー『人間不平等起原論』の歴史的意義を問う
 ・夢の解明に必須の学問を学ぶ――一会員による『“夢”講義(4)』の感想
 ・ヒュームの経済思想――『政治論集』を読む
 ・現代日本の政治家の“失言”を問う
 ・2017年8月例会報告:カント『純粋理性批判』経験の類推
 ・障害児の子育ての1年間を振り返る
 ・新しい国家資格・公認心理師を問う
 ・経済学の原点を問う――哲学者としてのアダム・スミス
 ・2017年9月例会報告:カント『純粋理性批判』経験的思惟一般の公準その他
 ・徒然なるままに――40歳を迎えて
 ・過程的構造とは何か――一会員による『“夢”講義(5)』の感想
 ・〔改訂版〕新自由主義における「自由」を問う
 ・2017年10月例会報告:カント『純粋理性批判』反省概念の二義性
 ・続・徒然なるままに――40歳を迎えて
 ・教育実習生に説く人間観の歴史
 ・2017年11月例会報告:カント『純粋理性批判』先験的弁証論 緒言・第一篇
 ・南郷継正の人生は弁証法の弁証法的発展である――一会員による『“夢”講義(6)』の感想
 ・改訂版・初学者に説く経済学の歴史
 ・2017年12月例会報告:カント『純粋理性批判』序文と緒言